生物学

生物の「なぜ?」に対する原因と数学~数学×生態学~

皆さんこんにちは!本日は「生態学と数学のかかわり」についてお話したいと思います。

生態学とはどんな学問かというと、「生物と環境の間の相互作用を扱う学問分野」です。つまり、生物の体内で起こっていることではなく、その生物自体が、生息している環境や集団に、どのような影響を及ぼし、どのような戦略を持って生きているのかを突きつめていく学問です。さらに、生態学の中に「行動生態学」という分野があります。動物の行動について実験・観察をしていき、行動の原因を探っていく学問です。野生の生き物を調査しに山や島に籠ったり、特別な環境下での生き物の行動を記録し続けたりと、根気と体力が必要な分野といえます。実験手法の関係上、24時間寝ずに1匹の昆虫を観察し続けたりすることもあります!

 

行動生態学の分野には現象の原因として4つの理由(要因)を考えます。 今回はそのうちの2つの要因についてお話しようと思います。

 

鳥はどうして渡りをするの??

「鳥はどうして海を越えるような長い距離を飛んで渡りをするのか?」

 

皆さんはこの疑問に対してどのような答えを考えますか?

「冬の間は子育てのために暖かい場所へ移動するんだ」
「海の向こうにまだ見ぬ何かがあるから…」

もしくは

「季節変動によって変化する日長時間を体内のセンサーが感じ取り、特定のホルモンが分泌されて生理状態が変化することにより、渡りが行われる」

どれも正しそうです。 一つの疑問に対して様々な角度から答えを考えることができますね。

「そんなもの鳥に聞いてみないとわからない!」

と思った方もいるかもしれません。
今回お話したいのは今挙げた回答例のように、行動生態学には一つの現象に対して色々な要因(factor)が考えられ、それぞれが影響していると説明することができるということです。
先に4つある要因中から代表的な2つの要因をあげると言いましたが一つ目がこれです。

至近要因(proximate factor)

これは現象がどのような仕組みで起こっているかという観点から考えたものです。
鳥の渡りの例でいうならば、「季節変動によって変化する日長時間を体内のセンサーが感じ取り、特定のホルモンが分泌されて生理状態が変化することにより、渡りが行われる」という答えです。

例えば「あいちゃんはなぜ恋に落ちるの?」という現象の至近要因は、辰人君から得られる感覚的な情報に対して、脳内で特定のホルモンが分泌され、拍動が早くなったり、性ホルモンが分泌されることにより、恋に落ちたと感じるからとなります。なんかロマンティックじゃ無いですね(笑)

 

それに対して、現象が生存・繁栄のためにどのような機能を持っているかという観点から考えたものが2つ目の要因で

究極要因(ultimate factor)

鳥の渡りに関しては、まだわかっていないことが多いですが、「餌の確保」や「繁殖行動と子育て」が目的だと思われます。生物(各個体)の究極の目的は種の保存です。つまり、子孫が何世代にもわたり継続し、遺伝子が引き継がれていくことが重要なのです。よって究極要因を考えることは生物を理解する上でとても重要なのです。

究極要因と統計学

至近要因については、物理学や生化学といった学問から、特定の物質や反応の過程を調べることによってある程度の答えを導くことが出来ます。

では、究極要因についてはどうでしょうか?もし、対象がヒトであれば「なぜ?」と聞くことが出来ます。しかし、ヒト以外の生物となると「なぜ?」と聞いても答えは分かりません。だからといって、犬語や猫語、鳥語…と勉強するわけにもいきませんよね。

究極要因を考えるためには、2つの視点があります。

① 「生存」に有利かどうか

② 「繁殖」に有利かどうか

まず、前提として生物には個体差が存在します。

”ある行動”について、その有無、強弱、タイミングなどは個体によって異なってくるのです。つまり、この行動の個体差が生存率や繁殖成功率にどう影響しているのかを調べるのです。「生存」に直結する行動であれば、生き残るのは”ある行動”を選択した個体が大部分になるため、観察と追跡によって考察をしていくことが多いのです。

基本的に生物の行動は自然淘汰的に有利な行動が選択されていきます。また、個体は「種のため」に行動せず、それぞれが「自分自身にとって」有利な行動をとっていくことで淘汰が起こります。鳥の渡りについても、渡りをしない個体があればエサがなくなったりして死んでしまうでしょう。渡るということが自分自身にとって有利に働くため、全体が渡りという行動をとるようになっていったのです。

仮に渡りをしない個体が種内にいたとして、その後を観察した結果、大部分が死んでしまうのであれば、その行動は「生存」に関して必要な行動だということです。死んでしまった原因を調べれば、その行動の究極要因が考察できます。
「繁殖」に関わる行動については、その行動が生殖行動とどう連動しているかを観察します。しかし、それだけでは憶測の域を出ませんので、繁殖成功率についてデータをとって検証していくことが重要になります。

ここで活躍するのが統計学です。

“ある行動”によって、「繁殖成功率に変化はない」と仮説を立て、その生物の観察からデータを収集します。そして得られたデータに対して統計的な手法を用いて、行動が「個体が存続していくために有利であろう」ことを導くのです。ここでは例えば母比率の差の検定を行います。

母比率の差の検定では、2つのグループの「繁殖行動が成功したか否かの比率」が等しいかどうかを調べるときに使います。2つのグループの標本数をそれぞれm、nとし、

その成功比率をとします。 このとき、

帰無仮説:行動による繁殖成功率に差はない(=

対立仮説:行動によって繁殖成功率に差がある

となり、以下の式で求められる検定統計量Zが標準正規分布に従うことを利用して検定を行います。

ここで、は2つのグループの比率の加重平均で、以下の式で求めます。

求められた検定統計量Zについて、標準正規分布表を使って設定した有意水準の有意点の値と比べて判定をします。
このようにして偶然ではなく統計的有意に繁殖成功率が高くなることを示すのです。

例えば、ホタルが光る理由。

至近要因は「ルシフェリンが…」となりますが、究極要因としては「メスをおびき寄せて交尾をするため」です。(危険を察知した時にも光を発しますが、光り方が違います)
ここで、「光ることで繁殖成功率に差は出ない」という仮説のもと、光を発する頻度、間隔、時間帯、強さなどのデータを取り、それぞれについて生殖行動に繋がったかを複数個体で記録します。
その上で、例えばそれぞれの行動について、頻度の高い・少ない、間隔の長い・短いなどのグループに分けて繁殖成功率の差を検定します。
その結果から、有意差が出れば、光ることが繁殖成功率に影響することが分かります。また、繁殖成功率と各行動頻度の散布図を作成して相関関係があるかを調べてみるとさらに関連性も見えてきます。

このように、様々な生物には直接聞けないからこそ、統計という学問の力を借りて原因を突きつめていくのですね。
皆さんが普段テレビなどで見る動物番組の情報は、こういった「地道な観察」と「統計学の活躍」があるからこそ伝えることができているのです!

まとめ

仮説を検証するためには、相当綿密な計画を立てなくてはいけません。 生物が生息している環境内では、影響を及ぼす因子が無数に存在します。それらを一つずつ取り除いていき、特定の因子が現象とどう関わっているかを確かめられていなくては実験が破綻してしまいます。ホタルの例だって雌の密度によって雄の光り方が変わるかもしれません。 しかし、生態学では、1年を通していつでも実験・観察が出来るわけではありません。その生物の発情時期が決まっていたり、出現する時期が決まっていたりするためです。一所懸命考えて立てた計画にもとづいて研究を進めても、ある一点で破綻があると、次のチャンスは1年後となってしまうことも起こりえます。結果まである程度シミュレーションをしたうえで、万全の準備が必要なのです!!

本日のお話では生物に見られる行動、現象の4つの要因の2つのみを紹介しました。その2つについて詳しく、また今日紹介できなかった残りの要因について書いてある本を紹介しておきます。

生き物をめぐる4つの「なぜ」/長谷川眞理子

では、また次の記事でお会いしましょう。